作家・堀辰雄が知人に宛てた手紙のなかに、
「・・・・どんな小さなものにでも自分の何かは残る その自分の何であるかは神様
に任して、残す努力を我々はすればいい・・・・」
こういった内容のものがある。このことばから助力を得て、いまこんな文章を書いている。
ことばは、文字は、残ってゆく。それがいつまでなのかは先が見えないけれども、そんなことばの持つ或る種の呪力に託して、日々の思索やら出来事を文章の形を借りて残してみたい。そんな実現欲がこの『朱の葉』の動機となっている。
自分の発案を盗った盗られたと言い合うことがしばしばあるものの、ここに書かれてゆくことばは、そのどれもが、だれかの作品や仕事のなかでちょっとした材料としてつかわれてゆくことを願っている。言ってみれば、読むひとに生かされている文章を書くことをここでこころみたいとおもっている。
令和2年6月
