読書が好きであったり、ブックカフェが好きなひとなら、一度は本屋での仕事をおもいえがいたことがあるとおもう。
たとえばここでは一坪の古本屋を想像してみたい。
場所はちょっとした山村で、なんでもないとある古民家。玄関は農家特有の、昔ながらのひろい土間で、その片隅に一坪分を陣取って本棚がならび、土のにおいをひっそりと呼吸している。
土間は基本暗い。その良さをのこしつつ、外光を入れるためにガラス窓を、それもすこしおしゃれに気をくばってステンドグラスにしてもいい。そうして客の出入りをお天気にまかせて、主はせっせと畑に出向く。
たとえ一日中本が売れなくても色彩をおびた光がかれら本たちをそっとなぐさめてくれる。掃き清められたうろこ状の土や、すっかり黒ずんだ本棚がやがて夕刻とともに影にそまってゆく、山村の古本屋。スローライフをおくる歳を重ねた書物たち。
本屋というよりは、半分は本の展示小屋と言ってもいいかもしれない。売るというよりも本を紹介する。本屋の持ち主が、好いと感じた本をとにかくならべただけの本棚でもいい。
そういった一坪の古本屋があちこちの農家の一隅にあってもおもしろいかもしれない。我が家の本棚として一家ごとに特色がひかりだす。或る家では縁側が本屋になり、或る家では離れがまるまる本屋になる。駄菓子屋を活かした本屋も風合いがあっていい。
日記だけをあつめた本屋、書簡だけをあつめた本屋でもおもしろい。季節によって本棚ごとうつりかわるのもいい。夏は玄関にすだれをかけ、冬なら土間に丸ストーブを置いてお餅を焼く。
たった一坪もおもしろい。