STUDIOwawon

STUDIOwawon(スタジオわをん)は、「かる、ゆる、らく」をモットーに、ことばをデザインしてゆくスタジオです。

おもいつき

 自分のかんがえたことはだれかがすでにかんがえついている。
 それは聖書であったり、中国の古典であったり、だれかの詩であったり、SNSであったり、ともかくだれかが先に語り、語り尽くしている。
 これとおなじようなかんがえもまた、たとえば芥川龍之介の『河童』という作品のなかで「我々の生活に必要な思想は三千年前に尽きたかも知れない。我々は唯古い薪に新しい炎を加えるだけであろう。」といった具合に書かれてある。
 こういったことは、なにかあたらしいもの、ひととはちがうことを想像したり表現したいひとには割り切れないかんがえかもしれないものの、ただ逆を言うのなら、自分がおもいついただけで表現できなかったものでもそれを代わりのだれかがもうやってくれている、或いはだれかがこれからやってくれるかもしれないという希望にもつながってゆく。自分が、他人が、はひとまずおいておき、とにかくそのおもいついたことが過去でも未来でも時空を越えてどこかで表現されていればそれでいい。そんな他力本願的なのぞみは、案外楽で手軽にもちやすい。
 おもいつく、というのは、すでにそこにあるかんがえに自分が共鳴することかもしれない。
 無理にあたらしいことをひねくりださなくてもいい。芥川の表現とはすこしちがうけれども、あらゆる思想が炎であるなら、個人のつかうことばはそれらを絶やさないための薪となる。要は言い回しの多様性を求めて、あとはだれかが自分の共鳴し気に入った思想を受け継いでいってもらえればいい。
 個性を伸ばす、とはよく耳にするけれども、それとは別に、自分と他人とどこが似通っているのかをさがして、どこまで共感できるのかをさぐってみるのもおもしろいと言える。あれにもこれにも共感できるものが多いというのは、一見すれば没個性ともうけとられかねないものの、個性ができることなど案外かぎられているのだから、あまりそんなことにこだわらなくてもいい。