STUDIOwawon

STUDIOwawon(スタジオわをん)は、「かる、ゆる、らく」をモットーに、ことばをデザインしてゆくスタジオです。

猫のお墓

 田舎にいると、ふらっと家にやってきた野良猫にエサをあたえていたらやがて住みついた、といったことがある。
 住みつくといっても、元来が野良猫なのでちょくちょくいなくなることもあり、飼い猫というのかなんというのか、そんな不思議なつきあいですごすことになる。
 都会ならペットショップにうかがって、ちゃんと家のなかだけで飼う、というのが一般的だからこれは飼い猫にちがいない。共にすごせばすごすほど愛着がわいて家族の一員となり、だから最期を看取ることもできて、お墓をつくることだってできる。
 これが田舎で、それも相手が元野良猫なら、かわいがっていたとしても急にいなくなってそれっきりのこともある。
 ふらっといなくなって、またふらっとやってくるのだから、いつまでも来ないことにふと気づいたときに、はじめて死んでしまったかもしれないとおもう。別の家に厄介になっていることもあれば、ほんとうに死んでしまったかもしれず、それがわからない。
 さよならのない別れ、とたまに耳にするように、或いはこれもそのひとつかもしれない。
 そうおもうと、随分と生意気に感じることがある猫も、いまそこにいることが存外一番ありがたいこととも言える。
 縁側にでもいればいいものを、ひとが主か猫が主か、いそいそと座布団に眠りこんでいる猫は、なかなかどうして、つい追っ払うことが億劫になって座をあけわたしてしまう。それが4、5日も姿を見せなかったあとのことなら、大目に見る気も手伝ってこっちが猫のように空いている箇所をさがして横になる。
 猫みたいなちいさないのちも、なんだかんだで人間の幸福論となっているらしい。だったら夏目漱石を真似て、形ばかりでもいいから生き物の供養塔のひとつでも小振り程度に建てておいてみたい。