STUDIOwawon

STUDIOwawon(スタジオわをん)は、「かる、ゆる、らく」をモットーに、ことばをデザインしてゆくスタジオです。

猫の寝方

 猫という生き物は死んだふりがうまい。
 すっかり横になって、アゴを上に向けて寝ている猫を見ると、おもわず死んでいないかどうか確認したくなる。
 もちろん生きているのに決まっている。ただ、結構ちかよってみても息をしているのかどうかよくわからない。やすらかな顔をしているものだからなんだかほんとうに死んじゃったようにおもえてしまう。
 どこか赤ちゃんに似ている気がしないでもない。
 赤ちゃんが寝ていると、つい、わかってはいても息をたしかめたくなる。鼻息を聞いたり胸の膨らみを目で確認して、それからたしかめたこと自体におかしさがこみ上げてきたりする。これは案外、悪ふざけの部類に入ってしまうだろうか。
 赤ちゃんも猫もよく寝る。たまに起きたとおもったら、あくびをして、向きを変えて、またごろりと決めこむ。よっぽど夢のなかの方が好きなのか、生きていることに無頓着なくらい気持よさそうに寝ている。
 赤ちゃんはひとの目のとどくところで寝ているからいいけれども、猫はあちこちで横になる。おもわぬところにいるときなど、下手すればいきなり死体を見つけた気分になったりする。
 すっかりひとになついた猫ともなると、堂々と庭先で寝ころんで、車が来たってうごかないものだからタチが悪い。猫の方が不機嫌そうな顔をして、車の方が気をくばって迂回する。ボンネットに腰掛けていた日にはあつかいに苦労する。
 そうはいっても、昔から猫は、ほんとうに死ぬときはひと目のつかないところに行く、と聞く。
 それをおもえば死んだふりのひとつやふたつ、寿命がくるまでは好きに演じてもらって、腹をすかせたらエサをあげるつきあいでもいいかという気になってくる。