STUDIOwawon

STUDIOwawon(スタジオわをん)は、「かる、ゆる、らく」をモットーに、ことばをデザインしてゆくスタジオです。

 落丁・乱丁

 購入した本に印刷ミスがあったため、取り替えてもらったことがあった。
 買った本の全ページをなにげなしにパラパラめくっていたら、文字が二重にずれて印刷されている箇所があった。400ページあるうちのたった十数ページ、目をこらせば読めなくもない程度のずれだった。ただ読みだすと目がくらくらしてくるためやっぱり交換してもらったのだった。
 ひとがつくっているものだからどうしたってどこかでミスがでてしまうことがある。誤植の場合は版を重ねる際に修正されることがあるだろうけれども、こういった機械のちょっとした不具合の場合は版に関係なくふせぎようがない。
 このような本は本棚にはゆかずに大抵取り替えられる。その後は多分、再生紙としてリサイクルに回される。そうなるともう残らない。
 全体的には、このようなものを不良品と呼ぶのだろうか。これがお金、特に硬貨となると、たとえば穴のあいていない50円玉でもあろうものなら珍品としてプレミア価格がついて回る。
 本の場合だと、よく初版刷りが定価より割り増しになって古本屋にあるのを見かけることがある。初版、というのはなんだか不思議な魅力があるようで、変な話、処女、ということばがもつイメージや語感とおなじものをそれらの読者ないしはコレクターは感じているのだろうか。内容的には変わらなくても、版を重ねたか重ねないか、すくなくとも日本人は気になるものらしい。
 また、本の場合は絶版した書物に高値がつくことがよくおこる。人気がなかったから絶版したものが大半であるはずだろうに、巡り巡ってそれが希少本として価値を高めるというのは、本自身にとっても作家にとってもいまいち納得がいかないような気がする。出版社や印刷会社からしてみても、あまりうれしい価値とは言えない。
 定価の2倍3倍、さらには5倍ほどで売られていたとしたら、読者も手がとどかなくて次々とあきらめてしまう。ひろく流通させるための体制のなかでつくられる本が、それもはじかれた本が高くつくのだから、これも不思議な気がする。もちろん最初から少部数で製作された書物は定価自体が高かったりする。
 落丁や乱丁のある本も、案外どこかで高く取引されているのかもしれない。
 落丁マニア、みたいなひとがいるかどうかはさておき、せっかくだからと記念にとっておくくらいのひとはボチボチいる気がする。
 世の中には、本来許されないミスのおかげで手元に置かれたり価値が上がる本がある。どういった落丁や乱丁であれ、手にした読者がそれでよしとすれば、そのような本もどこかの本棚にのこされてゆく。