STUDIOwawon

STUDIOwawon(スタジオわをん)は、「かる、ゆる、らく」をモットーに、ことばをデザインしてゆくスタジオです。

本と喫茶

 喫茶店で本を読むひとは多いような気がする。
 コーヒーを注文する。それからカバンに手をのばし、本をとりだして、すこし表紙に目を向ける。
 本のカバーそのままのひともいれば、おもいおもいのブックカバーをかけているひと、元々のカバーをとって簡素なデザインの表紙でもちこんでいるひと、それぞれいる。本はついさっき買ったホヤホヤか、詠み途中のものかもしれない。始めから、或いは栞の続きからひらいて読みだす。
 やがてコーヒーが湯気を立てて運ばれてくると、香りも一緒にただよってくる。コーヒーの香りとページをめくる音とが椅子にもたれる読者を包み、一口の苦みが目を覚まして、そうして頭もすっきり覚ましてゆく。
 コーヒーがあるからか、雰囲気のおかげか、喫茶店で読む本はなんだか妙にその読むという行為に味わいがにじみでてくる。本をたしなむ、とでも言いたいくらいにどこかいつもよりおちついて、ゆったりとした時間に自然とみちびかれるようにひたれる。喫茶店はおとずれたひとに時間も与えているのだろうか。
 こころなしか切羽詰まった様子のひとを見かけることは滅多にない。本を読むひとの手にもせわしなさは感じられない。
 こういった、喫茶店で本を読むひと向けにあらかじめ本がならんでいるのがブックカフェとなる。
 本を読む、本をこなす、そのための喫茶店。毎日々々淹れたてのコーヒーの香りをあしらった本たちが得意げに背表紙をそろえて、高いところも低いところも本棚を陣取っている。ここではメニュー同様、腕によりをかけてえらばれた店主ご自慢の書物が各お店ごとに特色をだしていて、足を運ぶひとつの判断材料になる。
 ブックカフェの店名はアルファベット表記が多くて、なんだかそれが読めないうちはどうも入りづらい。日本語では味がでないのだろうか。
 本と喫茶店はこんな風に相性がいい。
 決して読書をするのに最適な、静寂な空間でもないのに、むしろなにかしらの雑音がほどよく集中力をおぎなってくれるのか、ページは黙々とめくられてゆく。
 本が好きだからどこでも読めるのか、喫茶店にくると本が読みたくなるのか。店構えやらカップのデザインやらが加味された、雰囲気というなにか実体をとらえにくい空気感が喫茶店での読書を他とは一味ちがったものにかえているのか。
 おそらくは、コーヒーの味よりも香りが本を読ませている。
 香り、とはつまり香ばしいにおいになる。コーヒー豆の、焼けて焦げてカラカラになったにおいが湯気にのってただようのが、食欲ならぬ読書欲でもそそっているとおもわれる。たとえば電車での読書は、たのしむというより暇つぶしとしてあって、それが喫茶店での場合だとそこで読むたのしみが先にある気がする。
 本とひととコーヒーと、それらが喫茶店で重なって読書の幅がひろがってゆく。多分、時間のつかい方にも余裕が生まれて上手になる。なにより喫茶店だとデザートが小腹を満たしてくれるのだから、それもあって本をより味わえた気分にしているなんだかゲンキンな面もあるような気もする。